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画像のクランク、CTとあります。これは、今は無き米国ロサンゼルス郊外にあった “C-T Automotive” 社の刻印です。日野自動車が1966年当時、日野コンテッサのレース活動を託したピート・ブロックさんのBRE社が試作したクランクシャフトで、その制作を請け負ったのがC-T社という訳です (2020.3.31:人車共OH中 - クランクシャフトのミステリー)。以下はこのクランクシャフトのリファービッシュの道のりです。
DAY:2019年11月1日
このクランクシャフト 、1970年代、東京都下とあるところの軒下で雨晒しに遭いっていました。短い期間でしたがジャーナルに錆が入ってしまいました。とにもかくにも悪くならないうちに、2ヶ月ぐらい説得の末、レスキューしました。それ以来、およそ45年くらい温存しておりました。
ここに来てどうしてもこのクランクシャフトで走ってみたいと、リファービッシュする決意をしました。内燃機屋とも現物をもってどう対処するか議論しました。最大1mm (直径) 、すなわち表面、0.5mm程度の研磨が必要との判断になりました。
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DAY:2019年11月30日
錆をサンダーやヤスリなどで研磨をする気は毛頭ありません。まずは錆をどう除去あるいは軽減するかをネットでリサーチしました。世界中で多くの皆さんがチャレンジしており、
CORVAIR AIRCRAFT ENGINE CONVERSION
http://www.hainesengineering.com/rhaines/aircraft/corvair.htm
と、言う個人のサイトを隅々まで読ませていただきました。電解錆除去というもので、メッキと反対の原理です。ここではGMのシボレーコルベアの6気筒空冷エンジンをジャックヤードから買い上げ、飛行機に搭載する一連のストーリが描かれていました。およそ4年かけてエンジンが回るようなったようです。
4年はずいぶん長いと思いましたが、自分のクランクの修復だけでおよそ1年半を費やしてしまいました。
先達の情報から、以下のような部材を調達、衣装ケース、炭酸ソーダ、鉄棒、銅ワイヤです。画像左のARMのベーキングソーダは手持ちでこれも炭酸ソーダですが、量がたらないのでモノタロウから袋詰めのものを調達しました。
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DAY:2019年11月30日
衣装ケースに電極となる鉄棒をセット、これはマイナス(白ワイヤ)。そして錆除去対象のクランクシャフトを中に吊り下げます。こちらはプラスです(赤ワイヤ)。
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DAY:2019年11月30日
そしてプラス&マイナスに電圧をかけます。これは50年もののバッテリー充電器を使用。当初は12Vで2~3A、そしてある程度したらもっと低電流にと、6Vに切り替えました。
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DAY:2019年11月30日
電圧をかけて数十分、錆でしょうか、どんどん吹き出てきました。
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DAY:2019年12月3日
そして72時間後、取り出しました。本当は48時間くらいとありましたが長めにしました。炭酸ソーダ液は錆色で埋まっています。取り出したクランクは画像の通り、気持ち、表面が綺麗になったように気がします。
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DAY:2019年12月3日
そしてすぐに水道の水で洗浄しました。なるほど、表面が荒れてなくておとなしくなったように心なしかそう思います。
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DAY:2019年12月3日
炭酸ソーダ水や錆を呼び寄せた電極に使った鉄棒が画像のようにすごい状態になってます。まあ、よくもこんなに吸い取ったものだと、びっくりです。化学と電気のなせる技なのでしょう。
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DAY:2020年1月6日
クリーンアップ。WD40を吹いて600番サンドペーパーで表面を整えました。600番というのは荒いではないかと思われますが、昔のテクニカルな雑誌のイタリアのマセラッティの競技車両のクランクのセッティングに書かれていたそのままです。
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DAY:2020年4月4日
そして暇を見つけてはあるいは気の向いた時間にクランクのカウンターなど表面の取れてない錆や鋳造肌を整えました。軽量化やポリッシュではありません。あくまで面を整える、オイルなどの流れを妨げないという範疇です。
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DAY:2020年5月17日
画像は2020年5月17日ですがその後もシコシコを表見を撫でるようにクリーンアップしました。そして何と約10ヶ月を経た2021年2月で一連のプロセスを終えることになりました。もっともこの間、並行してコンロッドなどもろもろいろいろな作業もありました。これで他の部品と共に内燃機屋に託しました。
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DAY:2021年5月7日
内燃機での加工、ブロックやコンロッドの精度に問題があり再度持ち込んだり、いろいろと紆余曲折がありました。およそ2ヶ月を経て加工が完了しました。
まずは満足の仕上がりです。この先、ディテールな作業をしなければなりません。まだまだいばらの道は待ってると思いますが、楽しみです。
米国のコルベアのエンジン改修作業に4年、ここに来てそれが判るような気がします。自分が乗る飛行機や自動車も世界中でこれだけ自分自身で修復、これってロマン?、しかし乗り物は共に命がかかってます。これは模型趣味などとまったく考え方が違うところです!
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以下は、今回、参考にした電解での錆除去に関する参考にしたサイトの一覧です:
- CORVAIR AIRCRAFT ENGINE CONVERSION
http://www.hainesengineering.com/rhaines/aircraft/corvair.htm - Rust Removal Using Electrolysis
https://www.qsl.net/2e0waw/rust.htm - Electrolytic Rust Removal
http://web.archive.org/web/20070819152748/http://www3.telus.net/public/aschoepp/electrolyticrust.html - Electrolytic Rust Removal Aka Magic
https://www.instructables.com/id/Electrolytic-Rust-Removal-aka-Magic/
以上、
参考:このクランクを使っていたのが次の車両です。1967年1月当時の日野のPRにも登場してました!実はBREがこのクランクを使用したのは1966年10月末のシーズン最後のL.A. Times GPのみで、謂わば初優勝を賭けた『崖っぷちの勝負クランク』だったのかもと分析します。
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