2020.5.27:新旧技術ペーパーに学ぶ - ロングストロークエンジン

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 目下、2013年の公道復帰以来、現行使用中の基本ノーマルエンジンから進化すべくホンの少しスープアップしたエンジンの制作を進めてます。

 昔のように一夜にして突然完成なんて行きません。現行のエンジンも結構、時間がかかりました。これは歳を取りすぎた訳ですが、毎度これが最後と思うと慎重にならざるを得ません。

 最終的に考えているのは基本的にロングストロークエンジン (B/S比、1.113) の日野コンテッサ1300 GR100 エンジンの性格を活かしながらどう快適なエンジンにするかです。今回の目標は高回転まで回すというよりは中低速のトルクを稼ぐ方向性です。言わば、大人の対応です!

 日野コンテッサ1300が健在であった1960年代後半、新しい時代の日産サニーのA型やトヨタカロータのK型など、また常に進化するベレットのG型などショートストロークエンジンがうらやましく感じていました。それは今も変わりありません。なぜならば、ショートストロークエンジンの方が高回転が効き、バルブなど大きくして高出力が期待できることです。同じ排気量であればロングストロークの50%増しくらいは難しくないようです (データ上) 。

 しかし、時代の変化で環境問題を抱えたエンジンの進化をみると、今やロングストロークエンジンが主流となっているように見えます。そんな背景もあり日野コンテッサのロングストロークも捨てたもんではない、もう少し勉強して実践してみようということです。

 そこで以下に最近のメインストリームのロングストロークエンジンをリストしました:

B/S比 ブランド (エンジン型) ボアXストローク 排気量 出力 トルク
1.293 ホンダ N-BOX (S07B) 60X77.6mm 658cc58PS/7300rpm 6.6kgm/4800rpm
1.259 ホンダ/エディックス17X (D17A) 75X94.4mm 1668cc130PS/6300rpm 15.8kgm/4800rpm/td>
1.275 ダイハツ/トヨタ (3SZ-VE) 72X91.8mm 1495cc109PS/6000rpm 14.4kgm/4400rpm
1.225 ホンダ/CRZ (LEA) 73X88.4mm 1496cc120PS/6600rpm 14.8kgm/4800rpm


 ほんの一握りのサンプルですがいずれもコンテッサに比べてさらに大きなB/S比に進化しています。しかも時代の進歩でどれも高回転で高性能に見えます。そこで本題の技術ペーパーです。

Honda R&D Technical Review Vol.24 No.1 April 2012

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 ホンダのTechnical Review:テクニカルレビュー (所謂、技報) です。技術の勉強には最高の情報です。ネットを介して、誰でも閲覧できます。しかも無償です。

 この号には”軽自動車専用新型DOHC VTCエンジンの開発" があります。これは当時の新しいNBOX向けのエンジンに従来の71X56.4mm (S/B比:0.79) のオーバースクェアから64X68.2mm (S/B比:1.07) のロングストロークへと大きな変革をしました。その後もロングストローク化がさらに進んでいるようです。

 特徴やその詳細は上記のペーパーを参考いただくとして、自分として参考になった点は:

  • ノッキング対策:ピストンへのオイルジェット(コンテッサエンジンに採用不可)
  • ノッキング対策:冷却水、ブロックから上面に、ガスケットの温度を下げる(実はコンテッサ のDOHCはこの方式)
  • メカニカルフリクションロスの低減:クランク/ピストン/カム/バルブスプリングなど (これは使えそうなアイデア多くあり)

 などなどです。現実的に可能なことはメカニカルフリクションロスの部分と考えます。ピストンスピードの速くなるロングストロークのフリクションロスをどう減少させているかに興味があります。

 ホンダのTechnical Review、多くの場面でロングストロークにどう対処するかの課題と対処を見ることができます。

自工会 自動車技術:技術資料 (Vol.6,No.60,1967.6) 自動車ガソリンエンジンの高速出力化を妨げる諸因子---日野プロトスポーツカー用エンジンを中心に---西村 隆士(日野自動車工業、技術員)

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 これは半世紀以上も前の日野コンテッサ1300のロングストロークのGR100エンジンを高回転&高出力のプロトタイプレーサー向けDOHCエンジン開発に関するのペーパーです。おそらく日野自動車最後の小型ガソリンエンジン開発です。

 高出力化の制約と出力限界について:

  • ピストン加速度
  • 吸入空気量
  • バルブ機構
  • 機械損失
  • 燃焼効率

 当時の世界最先端のレーシングエンジンの分析含めて日野コンテッサのエンジンをどうするかを言及しています。多くが所謂 “ロス” の対処に割かれています。

 これらの要素は多くが上記の今日のホンダの取り組みと似ているように見えます。と、いうことは基本的に同じ要素を何時の時代も改善をしているということでしょうか?日野のペーパーのオイルに関して摩擦係数の低いオイル (成分まで言及) &適切なクリアランスバル部スプリング荷重の議論しかりです。

 今日の量産エンジン、かたや当時の最先端のレーシングエンジン、考えが異なるように見えますが、エンジンなんて基本的には同じなんだと思える瞬間です。

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 この日野のペーパーによると一つの解決策として、最終的に高速化と機械損失のためにベルト駆動によるウオーターポンプ とオルタネータを排して、オルタネータはクランクシャフトからダイレクト駆動 (下画像) 、ウオーターポンプ はクランクからギヤ駆動 (右画像) にして機械効率を向上させています。最後の最後の手段のようです。ただし、この機構をもったエンジンは日野では実戦に供するに至らなかったと分析します。

 この日野コンテッサのDOHCエンジンは1273cc (圧縮比:10.5) から100PS以上/7500rpm11.7kg/6000rpmを得たと記述されています。比較はあまり意味ありませんが、現代の量産エンジンは実に容易にもっと多くのゲインを得ています。50年の時間差を考えるとエンジンというものは格段進歩しているようにみえません。しかし、比較には量産とか環境などの要素も加味すると格段の進歩と考えます。

 電子化&電子制御、4バルブ、可変バルに、ブロックの強度&構造などこれらはまったく手が出ませんが、50数年前の日野コンテッサ1300エンジンもその当時に留めておかず、今日のエンジンの開発努力の要素を少し加味させていただき少しでも安定的にバランスのとれたエンジンに発展させることが可能と思います。これは望みでもあります!

偶然か!ホンダのエンジン vs. 日野のエンジン

 今回、最近のメインストリームのロングストロークエンジンのデータを検索して驚愕したことがあります。それはホンダのLEAエンジンのボアXストローク73X88.4mmであります。実は1966年10月に米国カリフォルニア、ロサンジェルスタイムズGPのセダンレースで勝利してBRE開発のコンテッサエンジンがボアXストロークの72.2X88.4mm でした。

 そのエンジンは、日野自動車のコンテッサ市場撤退後、運良く廃棄処分されずプライベータの手に渡りました。1968/1969年日本GPに参戦した個人の日野コンテッサクーぺ、すでに時代遅れになったものの当時の新星カローラやサニーたちとツーリングクラス (TS) で互角に戦っていました。実はその個体はBREピストンの72.2X88.4mmからA型ピストンを使用して73X88.4mmであったと分析 (現物検証) しています。

 と、言うことは、この半世紀以上前の寸法は今日のホンダのLEAエンジンとまったく同じボア &ストロークということです!数日前にこれを気がついて何とも運命的、あるいは勝つことや技術的進歩という意思を持つと結構おなじとことに着地するのだと思いました。たまたまですけど。。。。ただの奇遇?あるいは技術的裏付けは?

 ちなみに上記の日野プロトスポーツカー用エンジンのペーパーの技術者はホンダに移籍、F1エンジン含め大変活躍されたとお聞きしています。

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