このシリーズもう6回目、そろそろ終止符を打つべき時が来たようです!画像の ”DeskTop DYNOS” は四半世紀近くに渡ってあれやこれらを日野コンテッサ1300のGR100エンジンを正に卓上でチューンアップして妄想に耽っています。
重要なことはデジタル技術でバーチャルな世界を体験し、実機すなわちフィジカルで実際に結果を体感でき、さらにリファインするためのクローズドループやHITL (Human-in-the-loop:ヒューマン-イン-ザ-ループ) の世界となりえることです。昨今、DX (デジタルトランスフォーメーション) で言われるデジタルツイン、そんなものが極身近にあることです。
また数々の教則本で論じられているエンジンのカムシャフト、それの著者の誰もが述べていることは、カムシャフトはエンジンの "Brain" 、つまり "脳味噌" 、わかりやすく言えば、"司令塔" であるということです。こんなことが分かったのが恥ずかしながらつい最近であります。
カムプロファイルがエンジンの性格を良くも悪くも牛耳っていることです。それをベースにエンジンの性格を考えるあるいは構成を組み立てる必要があることです。もっともこれは60年代の旧いエンジンでの基本です。今は、いろいろカムが細工 (コンピュータソフトウェア含めて) されてるのでそんなに単純ではないと推測します。
ここ2年くらい悩んだカムプロファイル、いろいろシミュレーションもしてみました。結果的に現実を考えて自分として落とし所を見出しました。と、いうのも必然的にそうなったというものです。神のお告げかもしれません。
結論を見出した以下のグラフ(横軸:エンジン回転数、縦軸:パワー (DINに相当)) を参照してください (トルクは本稿末尾に):
今回、結論は、⑥のオレンジ色のものに近づけることとしました。カムプロファイルは、16-60-60-16、所謂、256度 (一般的な開閉の作用角を指す、0.05”リフトでの作用角ではない) 、リフト量は9mmです。かなり保守的なカムであります。現行エンジンのスポーツキットの272度にくらべてもかなり狭い、また例えば、BREが使用した280度、リフト量:12.5mmなど比べようもないショボい感じです。
では何故、このカムプロファイルに到達したかです。グラフをベースに以下に記述します:
① これは標準クーペのGR100です。ノーマルカムの22-54-60-16で256度、リフト量は9mmです。5,500rpmでおよそ68hp程度。日野のデータは5,500rpmでおよそ65hpなのでソフトウェアシミュレーションとして良いでしょう。
② 当時のスポーツキットをベースに、カムは25-67-67-25、272度、リフト量は9mm、1ミリほどのボアップ、スポーツマフラーなどによるゲインです。ソフトウェアシミュレーションで6,000rpm+で75hp+程度。当時のカタログ上では78hp、まあまあのシミュレーションです。
性格として、回転&パワーは上昇するものの、4,500rpm以下はノーマルカムの標準エンジンのほうがパワーが少々上回っています。ある程度、高速型にシフトしたことです。これがカムが “司令塔” と言われる部分です。
③ これは現行のエンジン、③と同じカムプロファイル、ボアはノーマルの71mm、その分、下は若干パワーが劣ります。6,000rpm以上は若干ゲインあり、これはインレットバルブの2mm拡大によるものと推測します。これらカムの変化は実車として明らかに肌で感じられる変化です。
④ BREのワンオフのストローカエンジンのシミュレーションです。これより先は標準のクランクシャフト に変え、CT Automotive製のクランクシャフト に変えたものです。(参考Blog:2020.5.27:新旧技術ペーパーに学ぶ - ロングストロークエンジン、2020.4.18:いにしえの雑誌 - CT Automotive - R8エンジン改造記事から、2020.3.31:人車共OH中 - クランクシャフトのミステリー)
88hp程度 (DIN推測) 、シミュレーションの元データのSAEでは98hp程度、日野のベンチでは98hp/5,800rpmとあります。ドンピシャです。272度のカムに12.5mmのバルブリフトはスプリングに過酷であり、破損を経験した様です。また圧縮比は12.5以上、レーストラックで販売されてた航空機用ガソリン必須だったそうです。
この仕様で1966年のL.A.タイムズGPに勝利し、1967年1月の船橋の全日本ドライバーズ選手権でも勝利をモノし、コンテッサ市場撤退が巷に流れる最中に大いにコンテッサのプレステージを上げました。パワー的には上はゲインがあるものの下はさほどでありません。またバルブ機構のリスク大でこんなことは金に糸目をつけないファクトリーチームだけが出来たことです。
このカムは4,000rpm以下ではパワーをそんなに感じないもの4,000rpmを超えると明確なパワーを感じとれ、それは7,000rom以上まで力強く続きます。おそらくレーストラックを高速回転でレスポンス良く走るのに向いています。(参照 - 2019.1.19:カムプロファイルに悩む (その4) - 過去の実機に学ぶ)
⑤ ④のカムを②&③で使ったリフト量がノーマルカムとホボ同じスポーツキットのカムにし、圧縮比=10.5でのシミュレーションです。バルブ機構のリスクを減らしてみました。下は似たような感じ、上はさほどのゲインもありません。これは魅力に欠けます。
⑥ そこでノーマルに近いトヨタブリスカのカム、16-60-60-16、256度のカムに変え、圧縮比は必然的に10.5です。どうでしょう、5,500rpm程度まではこの方が大きなゲインが明らかです。これは魅力的で明らかに一つの選択肢に間違いありません。
⑦ そこでこのカムでトップエンドの5,500rpmあたりにもう少しゲインをと、これは圧縮比を11.5に上げた結果です。もし、これが可能ならさらにベストな様な気がします。ただ、圧縮比を上げると高速域でエンジンが重く感じるかも知れません。その辺はどこにするかの落とし所と思います。
以上の分析、これはあくまでソフトウェアシミュレーションであります。しかし、それは経験のない素人にとってある程度の結果を事前に予測でき、また不測のリスクも減らせると考えます。
ここ長らく悩んだカムのプロフィアルも終止符を打ちましょう。すなわち結論です。ここに記述の⑥をベースに⑦あるいはそれに近い仕様にすることに決定しました。まとめると、以下のような戦略&戦術、仕様です:
- カムはトヨタ ブリスカの16-60-60-16、リフト量は9ミリを使用する。
- パワーのピークはせいぜい80~85hp/5,500rpm、トルクのピークは13〜13.5kg/約4,000rpm、その±1,500rpmで12kgあり、これが魅力。
- 上記からわかるようにトルク型エンジンである。
- 高速型のカムを使って高速域でのゲインは期待しない、リスクも犯さない。そのような回転域の使用は一般公道でな絶対にないし、ジムカーナであってのせいぜい5〜10%程度 (トラック走行ではもう少し多い) 、事実上、これは不要である。効果のあるトルク域を使うドライビングを考えた方が得策である。
- そのためにせいぜい5,500rpm程度までをスムーズに使える加工 (ピストンクリアランスなど) やバルブスプリングやフライホイールを選択することとする。すなわちフリクションロスを低くして、柔らかいエンジンとする。
- その他、ヘッドの吸排気回りについては常識程度の配慮はする。また排気系 (エキパイやマフラー) は後でも出来るので現状をベースにして余計な手間をかけない。
- もちろん、各部のダイナミックバランスはいつも同様に細心の注意を払う。しかし常識程度に。
- あらゆるリクスを減らすために不要&余計なことはしない。余計なことが不適切な場合にはその数倍のしっぺ返しがありが経験則であることを肝に命じておく。
と、いうことでエンジンの司令塔のカムプロファイルも納得、それにしたがった戦略&戦術も決定、前に進みましょう!