日野のクルマ:日野コンテッサ900 スペシャル(誕生50周年(2011年2月)記念)
【戦略面:市場背景】
日野自動車のルノー4CVに続く小型乗用車は市場では長い間ベールにつつまれ明らかになってなかった。それはルノーとの関係を継続し、4CV以降の例えば、後継車であるDauhine(ドーフィン、フランス語で"皇太子妃")を国産化するのか、あるいは国の指導、すなわちルノー技術習得の結果としての自社開発なのか、これは業界からの圧力でもあった。結果的に日野は1960年秋の第7回全日本オートショーに於いて、日本の市場ではいささか陳腐化したルノー4CVと同年の春に市場に出した日野コンマースのみで新たな小型車は何も示せずにいた。
しかし、そのベールを脱ぐ時が来た。それは1961年(50年前の昭和36年)2月27日,日野自動車は日野工場に報道関係者を招き、新車「コンテッサ(イタリア語で"伯爵夫人")」を4月1日の販売に先駆けて、発表会を行った(この発表には、商用車のブリスカ(ロシア語で"4輪幌馬車")も同時に行われた)。
発表当時の松方副社長の要旨:
4月1日より、待望の「コンテッサ」と「ブリスカ」を全国一斉に発売。これは従来の「ルノー乗用車」と「日野コンマース」に加え、更なる品揃え。
- 社は大型ディーゼルで不動の地位を占めるが小型車部門は立ち後れ、それ劣勢を挽回すべき時を迎えた。
- これら新車は当社技術陣の長年の試作研究の成果、かならずや社の発展に大きく貢献すると期する。
- 「ブリスカ」の完成は日野関係企業(三井精機を指すものと分析)の緊密なる協力作業の結果である。
- これをもって、会社は飛躍的伸長へ、大型&小型を持つ本格的総合メーカーとしてスタートをした。
日本の自動車産業の振興、また貿易自由化をひかえての大量生産&コストダウンとそのための巨額な設備投資を進めるという重大な十字架を背負った「コンテッサ(伯爵婦人」そして同時発表の「ブリスカ(4輪幌馬車)」であった。ここに日野の社運を賭けた結果を伴う本当のドラマが始まったのである。
日野自動車には、小型乗用車を手がけるにあたって一つの範があった。それは前身の日野重工業(1942年創業)の技術の中心人物、星子 勇(1884~1944)の「星子イズム」とも言える考え(原点)であった。それは、星子の「日本が豊かになるには,農業中心から工業国家にしなければならない。そのためには大衆車を造り、それにより自動車工業をちゃんとしなければならない」と、さらに「自動車工業は量産しなければ成り立たない。そのためにどうしても乗用車を生産する必要がある」という、欧米滞在を通して得た解であった。このことが星子の薫陶を受けた当時の松方副社長を含め、日野のDNA(すなわち、星子イズム)であり、ルノーからの技術導入、そしてコンテッサへの発展は自然な帰結と言えよう。
日野自動車は、日本での小型自動車開発・製造そして販売&サービスの技術導入&習得・展開に際して、フランスのルノー公団と提携、そして完全国産化を目指し、1953年(昭和28年)からルノー4CVのノックダウン生産による製作・販売を始めた。当時、外資からの技術導入は政府(通産省)の指導であり、日産はイギリスのオースチン社(A40、ケンブリッジ)、いすゞは同国のルーツ社(ヒルマン、ミンクス)、三菱はウィリス社(ジープ)とノックダウン生産による技術導入が進められていた。トヨタは最終的に技術導入はなかったが、外資の技術の多くが部品メーカーを通じて吸収していた。一連のこの動きは,第二次世界大戦中、そしてその後、乗用車の生産が禁止されていたことで、著しく遅れをとっていた日本の自動車技術を回復するもっとも効果的な手法であった。
当時の日本の小型乗用車の市場は、所謂、オーナー向けの自家用車だけでの採算にはほど遠いものであり、同時に営業用のタクシー向けと、一つの車種で目的の異なる市場に対応しなければ死活問題であった。それは日野も例外でなく、技術導入の「ルノー日野4CV」もその洗礼を受けざるを得なかった。特にタクシーに供された4CVにとっては、本来オーナーカー向けに経済車であった4CVは必ずしもタクシー業界の中での採算性は満足の得られるものではなく、さらに日本の当時の道路事情(悪路)、すなわち4CVにとってはあらゆる面で耐久性という課題も多く露呈していた。そして国産化した部品にしろ、日本独特の不具合課題にしろ、ルノー社との関係は友好的ではあるものの顧客を目の前に抱えた日野自動車にとって、市場要求を満たすため、あるいは市場の中で勝ち抜く為の迅速な対応には時間を要する難しいものであったのだ。このためには、ルノーと決別をした自己完結出来る自社の小型乗用車、すなわち「コンテッサ=伯爵婦人」であったのだ。
(SE、2011.1.28 Original)
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