ステアリング・ギアボックスアッシーのオーバーホール
まずは基本の整理整頓である。簡単でも専用ボックスを制作して、きれいに清掃し、割れ・傷などをちゃんと確認し、目視できるようにしておきたい。
「道具類 - 窮すれば通ず!:ステアリング・ギアボックスOH治具」にあるような専用ツールでバラしたものである。
【ステアリングロッドのガイド・ブッシュ各種】
「ステアリング関係 - 実践編」の「ステアリング・ラックの右側のブッシュの材質を鉛青銅鋳物からクロム・モリブデン鋼 (SCM21) に変更、なお、左側ブッシュ (ポリウレタン) については変更なし」にあるように材質の変更があった。
中央奥が、「鉛青銅鋳物」である、手前がクロム・モリブデン鋼のもの。それぞれ、微妙に形状が異なる。左手前が「PD300-103369以降」に組まれているものであり、右手前のものは、「PD300-103369以前」である。
【ステアリングギアボックスの割れ対策】
「ステアリング関係 - 実践編」の「PD300-103369以降」の「ステアリング・ハウジング端部の割れを防止するためのステアリング・ハウジング端部の肉厚を増加」の対策済み (右写真の左側) と問題を発生させたいたもの (右写真の右側) の比較。
写真で判るようにかなりの強固なものになっている。下の写真をみても大分ぶ厚いものになった。
写真の右側の未対策品、ばらしてクリーンアップしたのできれいにみえるが、実はひび割れが発生していることが判明した。残念ながらこのボデーを使ってオーバーホールすることはできない。
このボデー自身が50年も使用したものかというとそうでない。70年代に解体して温存していたものである。と、いうことは10年にも満たない、7〜8万キロの走行でひび割れが出たということだ。もっともそうでなければ写真の左側のように2年余りで対策品を出さない、今では完全なリコール対象であろう。
実際、どのようなひび割れになるかは下のスライドを参考にされたい。なお、割れに関してはここの端部だけではなくボデー本体中央部分などさまざまは例を目にしている。今となっては、おそらく生産されたものの半分は使いものにならないだろうとと考える。
短時間に不具合を明らかにするタクシー会社の使用状況で販売初期に問題を出していただのだから、いち早くオーナー需要の個体にも生産過程での対策、また販売済みの個体にも現代のリコール並みの対策をしていただきたかった部分である。1966年10月にトヨタとの業務提携が発表され、実行に移された1967年4月を過ぎて、生産車に対策品が組まれたというのは誰の目に見ても遅すぎる感がある。しかも、購入済みにオーナーはまったく知らなかったのである。今の時代では考えらない。
特にコンテッサクーペのオーナーにとって、販売開始 してわずか一年半という非常に短い時間でのトヨタとの業務提携の発表は良くも悪くも大きなインパクトだった。巷にサプライヤーへの部品発注停止というまことしやかなニュースが流れた訳であり、もしトヨタとも業務提携がなかったならばというタラレバを考える、あるいはトヨタが日野コンテッサの将来を生かすというこれまたタラレバを考えたらば、このようなステアリングギアボックスという命に関わる部品もすぐさま改善され、購入済みのオーナーにも手厚なもてなしをしたのかもしれないが、世の中にはタレバラなどの甘い話は存在しない。
しかし、「フォーム・フィット・ファンクション」の考えをもって対処すれば、50年を経た部品でも怖いものはない。当時よりももっと優れたもので解決が可能であることを忘れてならない。日野コンテッサ1300の未来は明るい!
【ステアリングギアボックスの割れの見本】
【ステアリングギアボックス、さらなる形状あり!(2015年8月2日)】
上記のようにステアリングギアボックス、70年代半ばに解体したクーペから外したものは3本中2本に同様なひび割れがあることが判明した。40年前後、温存しておいてこれほど情けないものはないとネガティブな気持ちだ。
気をとりなおして、もっとも汚れたいた一本には同様なヒビ割れは見えない。そこでコイツをオーバーホールにとバラして洗浄を進めた。
そこで大きなことを発見。右の写真を見てもらいたい。中央のものが今回新たに分解したものだ。
端部の形状はヒビが発生したものと同様である。しかし横方向に入るリブの幅が広くなっており、最終形状のものと同じ7ミリ程度と大幅に強化されている。ポジティブな気持ちさせてくれる朗報である。
ではこの形状のものがどの車体番号から入ったのかである。残念ながらデータがない。一つ言えることはこのギアボックスにも写真の一番下のヒビが発生したものと鉛青銅鋳物ではなくクロムモリブデン鋼 (SCM21) のブッシュが入っていた。その形状はヒビが発生しものと形状が異なり、最終形状 (写真の一番上) と同様な形状であった。と、いうことは1966年9月以降、かなり後に上記の写真の下から上へと設計変更が逐次行われていたと考えられる。それほど、市場からのクレームがあったということも裏返しに言える。
コンテッサのオーナーは愛車についている部品はどのようなものか、そして車台番号に沿って適切にメンテナンスしているあるいはされているかを自ら知っておくことが重要と感じる場面である。
【ステアリング・ギアボックスのポリッシュ】
右に写真を見て判るようにストックのギアボックスは結構、バリや何故だか分からないがギザギザのキズ (加工) 跡が目立つ。今回は仔細なヒビ割れなどを見つけたりするために、究極の汚れ落とし&掃除であるポリッシュを試みた。と、言ってもよくアルミホイールなどの大掛かりなポリッシュでなく、あくまでアルミ表面のゴミ落とし程度のポリッシュである。
以下はその結果である。1~2時間程度の作業ではあるか、表面を滑らかにして、鋭利な角に適当なRをつけたりと、これだけで表面を叩いたさいの音の響きはよくなり良い打楽器のような音色を出すようなる。おそらくコンロッドのポリッシュのように若干なりとも強度をましたのではないかと自画自賛である。いずれにせよ、この二本だけがヒビ割れもない状態で次のプロセスに進めることができるようになった。
上の写真のヤヤ磨きが足らないような右側のボデーをバリを取り、磨き込んでみた。およそ、2時間の努力で少し綺麗になった。磨きとは技術もあろうが時間の係数のようである。キリがない作業であり、これ以上はもう良いだろう。
【内燃機屋に作業依頼】
中目黒の内燃機屋さん (近藤内燃機) にお願いしてあったステアリングギアボックスのベアリングブッシュとセンターの調整が数日で出来上がった。
自分としては、純正に換えて左右二つあるベアリングブッシュのセンタリングは非常に重要であると考え、現車コンテチ用を四半世紀前にもお願いし、現在は実働稼働している。今回はブロンズのブッシュ制作とその打ち込み、センタリングを正しく行うということをお願いした。
シャフトの曲りなども正確にチェックいただいた。ブッシュは一応、日野の当時の新品を持ち込み、それをベースに制作、日野のものはクラアランスが結構大きい (量産部品故?) とのこと、そこで内径を5/100ミリ程度小さくしたブッシュを制作したとのこと。
いずれにせよ、当然のことだが、今回も打ち合わせでお願いした通りに、言い換えれば彼らの職人のノウハウを素直に受け止め、作業をお任せした。
上のようなプロによる妥協の無い出来上がり。日野が対策のために強度を高めた最終品は、シャフトで5/100ミリ、ケースが3/100の変形があった。そうでないほうはシャフト&ケース共に変形はなかった。理由はよくわからない。
【プレート類のクロームメッキ処理】
ステアリングギアボックス用のクロームメッキ、何時ものことだが、出す時の処理とメッキ屋へのインストラクションが肝である。素人ゆえ、中々強いことも言えず、結果的に (おまかせの) 妥協に近い。
こちらはコストを下げたいのでとにかく薄くていうもののが、メッキ屋は綺麗にあげたいので厚めの処理となってしまう。まだまだ修行がたらない。
ところで取り付けてしまえばまったく見えないところに何故クロームメッキをするのかだ。理由は簡単で綺麗に見せるのは二の次で、主目的はメンテの問題である。後のことを考えれば、メッキならばワックスなどを定期的に入れておけば錆びず、よごれれば吹けばよいのだ。これがペイントだったそうは行かず、錆びの問題を常に考慮せねばならない。それだけのことで、総合的にライフサイクルコストがもっとも安上がりなメッキとなる訳である。
メクラ蓋など計10点 (二台分) のクロームメッキを、ただし、これら小物なのでコストダウン対策でバフ掛け処理を省きお願いをした。小物なのであまりアラは見えない。出す際に表面を極力綺麗にしたこともありバフ掛け処理なしでも結構綺麗に見えるものである。メクラ蓋はさらに自分でポリッシュをすればかなりいける。
【センタリング機構のリターンスプリングの組み付け】
コンテッサのステアリングの重要な機構であるセンタングをだすリターンスプリングの組み込むを自作の特殊ツールを使ってギアボックスの中に組み込む。リターンスプリング、クーペの場合、自由帳で280ミリ程度のスプリングを200ミリ以下に圧縮しなければならない (参照:基本データ) 。
仕様によるとおよそ30キログラムの荷重です。これは人間の腕力では不可能。コンテツの現役当時から一度出したスプリングは人間の手では入らないというのが定説だった。
当時は日野の専用工具 (SST) を使うことが常識でした。今ではそんなものはありません。そこで画像のように専用の工具を製作して圧縮し、無事、ケースの中に収めることとなる。
【ピニオンギヤの組み付け】
ピニオンギヤをソケットを利用して打ち込む。そして、クロームメッキを施したキャップを入れ、カップリングのアダプタを取り付ける。
【カバー類の組み付け】
クロームメッキを施しておいた二つのメクラ蓋を入れ、かしめる。
スプリング部分の大きなカバーもクロームメッキを施しておいた。自作のガスケットを入れ。アルミボルトで取り付ける。ボルトは通常、普通のスティールだが外から見えない部分であるが若干高価なアルミ製にした。数グラムの軽量化?ほとんどプラシーブ高価の世界である。
【カップリングの組み付け】
日野のオリジナルの当時として常識な材質に換えて、VWバギー向けの硬質ウレタン製を使用。70年代後半からこのシリーズを利用している。ボルトのロック、日野純正のそれは割りピンであり、後の作業性が極端に悪い。そこでナイロンナットを使用。
以前、コンテッサの識者と言われる方らか、「このカップリングは使ってなならない、キックバックをどうするのだ!」とお叱りのようなコメントをいただいた。一般的なクルマはゴム製であり、確かにそのコメントには正論ありで、そのゴム製もいろいろな硬度があることも事実である。しかし、50年以上前の道路事情は変わっているのでキックバックは当時と比較できない。自分はこれで良いと思う。30数年、このカップリングで問題を感じたことはない。
【ストッパの組み付け】
ステアリングを据え切った際の金属同士の干渉を和らげるためのストッパ、日野オリジナルがラバー (ゴム) 製であるが、耐久性の優れたウレタン製を使用。四半期世紀前に棒状のウレタンにラックの直径に合わせた穴を持つものをウレタンの専門業者に制作してもらった。
以前、あるコンテッサのオーナーからステアリングギヤボックス交換後、ハンドルを据え切ると金属音がでると相談があった。おそらくその個体にはこのストッパが付いてないのではないかと即刻、頭の中をよぎった。
【完成】
【その他】
カップリング、日野オリジナルとの比較。右の日野のものは経年変化が著しく見えるがまだ使えないことはなさそう。ただ、当時の柔軟性はすでに失っており、カチンカチンである。いずれしろ、やはり左のように新しい方が好感が持てる。
交換した部品、ただのゴミである!
【参考画像 その1:およそ24年前のオーバーホールの光景】
この時は二本まとめて実施した。ブルーのカバーは現車に、イエローのカバーはデルダンディツーリングに組み込んだ。二つのメタルブッシュの加工とその調整には内燃機屋にお世話になった。なぜ、内燃機屋というと、エンジンのメタルのセンターを出す技術と工具を持っているからである。尚、共にリターンスプリングを入れなかった。理由はカートのようなダイレクト感のあるフィーリングを試したかったからだ。結果は一長一短、プラスは正に自分の意のままに切る・戻すというフィーリングを得たこと、マイナスは高速での風の影響は結構大きく、暴風雨の中での高速ドライブは危険この上ないことを味わったことだ。
【参考画像 その2:およそ10年前の現車への対応】
その1に記述のブルーのカバーのギアボックは現車のリノベーションの際に化粧直しをした。メインはボデーのポリッシャだった。やはり光沢をはなすアルミボデーのケースは綺麗な (=良く走る) レーシングカーのようで気持ちがよい。でも実際に表から一切見えない場所なのだ。大いなる自己満足に過ぎない。ついでにカップリングもブラックのウレタンから赤のウレタンを新調した。両端のストッパーはラバーゴムからウレタン (特注) にした。2枚目の写真がそれであり、但し、ノーマルよりは倍の厚さとし、これはコンテッサ独特の回転半径を稼ぐためのキレすぎ防止である。
(SE, Original 2015.7.13)
(Added, 2015.9.6)
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